赤木リツコが変化に気づいたのは、早朝のリビングであった。 同居人の少女が景気良くはなうたを口ずさむ様子を傍目に新聞を手に取る。アスカ嬢のご機嫌がいい日は、こうした光景も珍しくはない。ただ、女としての勘が、いつもと何かが違うとリツコに告げる。 「ご機嫌ね、アスカ」 苦笑しながら言うと、アスカは一変して、遠慮がちに頷いた。 「シンジ君と何かあったのかしら。どちらかというと、前向きな方向で」 「な、なんでそれを・・・・?」 「知ってるのかって? もう。そんな朝からご機嫌だったら、誰だって分かるわよ。アスカの頭はシンジ君でいっぱいなんでしょうし」 茶化すリツコをひと睨み。しかし、そんなものは感じないかのように、金髪が楽しげに踊った。 微笑を浮かべて彼女はモーニングコーヒーを注ぐ。香ばしい香が部屋に広がり、慣れ親しんだ朝の光景へと変わっていく。ただ違うのは、俯いて顔を見せないアスカと、それを寂しげに見つめるリツコだった。爽やかな朝の光景にしては重々しい雰囲気。ピリピリと肌で感じた猫達は、心配げに両者を見守っている。 カチコチと掛け時計の音。秒針が一回りするとき、意を決したように、アスカが口を開いた。 「アタシを信じてくれるって言ってくれた」 「・・・・本当に? 演技とか嘘じゃなくて?」 「知らないわ。アタシは信じるだけ。この世界は信じられないけど、シンジだけは違う。疑わない。信じるだけ」 例え世界中が敵に回っても、自分は信じ続ける。そう決めたのだ。一方的でも、構わないと思っていた。言わば神様の代わりみたいなものなのだ。裏切らない、疑わない。そんな全能的な存在に縋る、哀れな子羊。 惣流・アスカ・ラングレーは狂っている。ああ、そうさ。認めよう。自分は狂っている。狂人だ。精神異常者だ。正常を装って、異常を隠している。 だが、それに何か問題があるのか? 妄信する存在を異常というのなら、殺人を肯定する世間は正常だというのか? 日夜TVから流れる殺人のニュースを聞き流し、地球の裏側では何万人もの餓死者が出てる事実を肯定する。 知っているのに何もしない。自分では何もできない。自らには力がないから許されると、本気で思っているのだろうか。 知っているにしろ、知らないにしろ。見殺しにしたという事実は変わらない。それは罪だろう? 哀れな難民の死を肯定したのだろう? 自身の生活を取り、関係がないと知らん顔をする。それが普通。それが異常。日常に隠れた異常。 だが、それに何か問題があるのか? ただ、世間が認めているだけで、それは“正常”になる。例えば、神を妄信する信者は信徒。神の子供。だというのに、信仰する対象が代わるだけで邪教と罵られたりする。<十字教>から見た異端、悪魔。そういった神を信仰すると異常だと認識されてしまう。その理不尽ささえも気づかない世間。異常を正常としてしまう世間。 アスカが信じる神は、十字架に磔にされた。両腕をロンギヌスの槍で貫かれ、ヨリシロにされた少年。 何が違うというのだ。キリストと、碇シンジの、どこが違うというのだ? 彼は信じてくれると言ってくれた。世界中で、自分だけを信じてくれると言ってくれた。なんて幸せなんだろうか。己が信ずる者から、信頼されているという事実。必要とされている。自分だけを見てくれている。 ――――――それはなんて、気持ちのいいコト。 「なら、最後まで信じ続けなさい。鼓動が止まるその瞬間まで、体が灰になるその瞬間まで。それが、選ばれたあなたの義務よ」 ならば、選ばれなかった赤木リツコは。 今度こそ、最後まで“赤木リツコ”を演じ続けよう。途中で退場なんてしてあげない。今度こそ、最後まで見届ける。閉幕まで、演じ続ける。NERVの赤木リツコは、最後まで、シンジとアスカを、見届けてみせるのだ。 「リツコ」 「まあ、あなたなら、そう難しいことでもないでしょうけど。頑張りなさい、アスカ」 嫉妬がないと言えば、嘘になる。羨ましかった。妬ましかった。シンジに選ばれたアスカが、この上なく妬ましかった。 それでも、リツコは言う。頑張りなさい。選ばれたのは、あなたなのだと。 アスカとて分かっているだろう。リツコが妬んでいること、嫉妬していること。それなのに、『頑張りなさい』と、彼女は言った。 『頑張りなさい』という言葉に込められた、いくつもの感情。でも、そんなのを無視しても、リツコは祝福をこめて言ったのだから。疑うのは余計だ。探るのは失礼だ。祝福してくれた、ただそれだけが大事なのだ。 だから、アスカは感謝した。ありがとう。ありがとう。祝福してくれて、ありがとう。 中身はドロドロでも、精一杯虚勢を張って、それでも『頑張りなさい』は輝いていた。その輝きの、なんて醜悪しいことか。 「――――――ありがとう。リツコ」 そう言って、アスカは心から微笑んだ。感謝の意を込めて、そう。 「アタシ、シンジを起こしてくるわ」 踵を返すと、ロングの金髪が翻った。パタパタと音を立てて、スリッパが遠ざかっていく。リツコはカップに口をつけて、深いため息を吐いた。劣情を吐き出せ。胸のつっかえを吐き出せ。 そうして、赤木リツコらしく。クールに。淡白に。そうして、仮面を被り直す。 それでいい。 それがいい。 そうでもしないと、今にも泣き出しそうだったから。 決意を込めて。自分に言い聞かせるように。リツコは、小さく呟く。 「――――――負けちゃった、か」 「えー、突然だが、霧島マナが転校することになった」 朝のSHRに、2年A組担任の教師が切り出した。突然のことにどよめく教室。転校してから、無欠席(遅刻はしまくっていたが)のマナがいないことを不審には思っていたようだが、転校とは考えもしなかったのだろう。普通の転校ならば、事前連絡してくるし、何より気さくな霧島マナが、何も言わずに去ってしまったことが信じられないらしい。 事情を知るシンジとアスカは担任の話を聞き、顔を見合わせた。恐らくNERVが手回ししてくれたのだろう。今回の一件は、ゲンドウが直々に頼んできたものだ。正式に命令をするとなると、副指令であるユイを通さなければならない。『霧島マナを排除しろ』なんて言えるはずがなく、ゲンドウは行動を起こせない状態だった。そこで保安・諜報部ではなく、個人的にシンジに依頼してきたのである。 確かにゲンドウはシンジを嫌っている。 だが、有能な駒であることも、十分に承知していた。三年前ならいざ知らず、自分と対等に話せる度胸、それに伴う技術。お眼鏡には、十分に敵う能力をシンジは持っていた。 「・・・・なあ、碇。事情は聞いてないのか?」 隣の席の小宮山君が、担任に聞こえないように小さな声で聞く。 「親御さんの都合だと言ってました・・・・結構、複雑な家庭環境だったみたいですから」 沈痛な面持ちで語るシンジに目を丸くし、それなら仕方ないかもな、と、小宮山君は納得した。それに、シンジがこうも表情を表すのは、転校してきて初めてだったのだ。いつもクスクス笑っているか、無表情かの二択だったシンジだ。その彼が寂しそうにするのだから、納得もしてしまう。 シンジの周りの生徒達も聞き耳を立てていたらしい。納得するのと同時に、興味深そうにシンジを眺めている。その様子に当人は首を傾げる。 「・・・・そう。残念ね」 大体の事情(作り話の方)を理解したヒカリは呟く。せめてお別れ会はしたかったのに。最後に色紙を贈って、写真を撮りたかった。だが、それも適わない。担任の話では、すでに第三を立っているらしい。よほど急いでいたのだろう。 そういえば、と、アスカに向き直る。委員長らしかぬ行為だが、今回は多めにみよう。 「アスカも、何も聞いてないの?」 「ええ」 霧島マナと仲が良かったのは、他でもないアスカだ。その彼女が知らないのなら、他に知る人はいないと分かる。 「マナも、電話くらいしてくれてもよかったのに」 顔見知りなだけのクラスメートは兎も角、親友(ヒカリ視点)のアスカにまで音沙汰なしだとは。でも待てよ。最後に会ったのは金曜日。その間に休日を二つ挟んで、昨日第三を出た? いくらなんでも急すぎる。一日で全ての作業をこなしたとでもいうのか。 ヒカリは不可解なマナの転校に不審を持った。 (それに・・・・どうしてアスカはそんな平然としているの?) 何も言わずにいなくなってしまったのだ。ヒカリの知るアスカならば、絶対に怒っている。水臭いとか、そういう感じに。 あまりにも、平然としすぎている。 事情を知っている? いや、今も知らないと言っていた。ならば隠しているのか? でも、隠そうとする理由が分からない。 SHRは終わり、各自が事業の準備を始める。 マナの話題は、それっきりだった。 背の高い電柱が空を突き抜けている。まるで、どこまでも背伸びしようとしているツクシみたいだと、洞木ヒカリは思った。 普段とは別の道を通る帰り道は、意外と新鮮だった。胸の引っかかりが取れないヒカリは、考えるだけでは仕方がないと、マナの元住居に行ってみることにしたのだ。 職員室で詳しい場所を聞き、今に至る。 探偵じみた行動に胸を躍らせつつ、いけないいけないと頭を切り替える。恐らく鍵は開いていないだろうし、話が本当なら、すでに部屋はもぬけの空。それを確かめたら、隣の住人に聞けばいい。クラスメートだと言えば信じてくれるだろう。そのために制服姿のままで訪れたのだから。 メモを見ながら、歩を進めていく。 しばらくすると、マンションが多く見えるようになる。第三の中でも、中堅層の住人が好んで住まう住居区である。一戸建てを持たない家族が多く、逆に家持ちの人間はここから西の方面に集まっている。ちなみに、ヒカリの住まいはその西区に位置する。 目当てのマンションを見つけると、早速郵便受けを確認してみた。急な引越しの場合、どこかに見落としがよくあるものだ。特に郵便受けのプレートは、次の住人が入ってくるまで放置されていることもしばしばあった。 だが、マナの部屋だと聞いていた304号室のプレートはない。真っ白だった。まるで元から存在しなかったのように。 急に消えてしまった霧島マナ。彼女は、初めから存在しなかったのではないだろうか? いや、何を考えているんだろう。何を馬鹿な。こうしてマナの住居を聞いて、実際にやってきたのは他でもない自分。変な妄想はよそう。 建ってから間もないのだろう。まだ小奇麗な階段を上り、三階へと辿り着く。なぜかエレベーターに乗る気は起きなかった。 「えっと・・・・304、304・・・・」 階段を上ってすぐに見えた番号は、307だった。それを逆に沿っていく。306、305。 「304・・・・ここね」 声を出して確認する。確かに304号室だ。部屋番号の下にあるはずのプレートはすでに外されていて、僅かに残る擦れた跡だけが、プレートが挟まっていた名残だった。 チャイムを押す。ピンポーン、と、聞きなれた電子音が鳴った。カメラが付いているので、訪れた人物の顔が中から窺えるタイプのものだ。第三の家は、殆んどがこのタイプのインターホンを備え付けている。 ピンポーン。二回目の電子音。数分待っても、返事は返ってこない。 「本当に、引っ越しちゃったみたいね・・・・」 分かっていても、なんとなく寂しくなってしまった。本当にいないんだ。第三から、引っ越しちゃったんだ。 「あのう・・・・」 遠慮がちにかけられた声に、ヒカリは振り返る。立っていたのは中年の女性だ。隣の305号室から顔を覗かせているので、そこの住人なのだろう。ちょうどいいと、ヒカリは思った。 「霧島さんのお友達でしょうか・・・・?」 「ええ。クラスメートです。それで、お聞きしたいんですけど――――――」 「マナちゃんは、引っ越しちゃったんですか?」 「え?」 たった今聞こうとしていたことを先に言われて、ヒカリは声に詰まった。引っ越すも何も、お隣である女性がなぜ聞いてくる? 一番近いはずなのに。 怪訝そうに眉をひそめるヒカリを見て、何も知らないことを悟ったのだろう。女性は昨日の出来事を語ってくれた。いきなり引越し業者を名乗る集団がやってきたこと。その際に大家とひと悶着があり、結構な騒ぎになったこと。業者は本人の依頼があってやって来たと言うが、その本人の立会いがないのに勝手に始めてしまっていいのか、ということで口論になったこと。 ヒカリは話を聞いて、確かに女性が不思議がるのも無理はないと思った。住居の詳しい決まりは知らないが、本人の立会いがないのは不自然だし、マナが一度も姿を見せなかったことは、さらに不自然だった。 「本当に、あっという間だったから・・・・びっくりするくらい」 「・・・・」 きな臭いものを感じる。よく分からないが、そう感じるのだ。事実、目の前の女性も同じ結論に至ったのだろう。だからこそ、尋ねてきたヒカリに自ら声をかけたのだ。 だが、これだけでは何も分からないのもまた事実だった。業者は実在するものだったらしいし、後から大家が電話で確かめて確認したらしい。間違いないと、キッパリ断言されたそうだ。 だが、怪しいのだ。 後に後付けされたような理由。不自然な引越し業者。考えすぎかもしれない。だが、そう思えてしまうほど、不自然に思えるのだ。 話してくれた女性に礼を言い、ヒカリは立ち去ろうとする。すると、 「そういえば、関係あるかは分からないけど、二日前に男の人と歩いているのを見かけたわ」 と、思い出したように女性は切り出した。なんで早く言ってくれないのか、と、内心で毒づきながら、相槌を打つ。 「肌が黒い青年で、仲が良さそうだったわ。お出かけ? って聞いたら、彼氏をとっておきの場所に連れていってあげるんだって」 「とっておきの場所・・・・?」 本格的に探偵っぽくなってきた。そんなことを思う。 だけど、とっておきの場所? とっておき。面白い場所? 街中のお店か、それとも誰も知らない場所なのか。そうだったらアウトだ。誰も知らないのなら、簡単に見つかるはずがない。とっておき。とっておき。 「ごめんなさいね、これだけしか分からなくて」 申し訳なさそうにする女性を見て、ヒカリは我に返った。黙っていたのは不味かった。とっさに愛想笑いを浮かべ、「そんなことはないです」と、言いつくろう。 そして礼を言って、今度こそ踵を返した。 それからヒカリは、考えられる“とっておきの場所”を回ってみた。別に確証はない。ただ、これくらいしかなかったのだ。残っているものが。 まるで、虚空に消えてしまったかのように姿を消した霧島マナ。こんなことを言ってはなんだが、ヒカリは胸をワクワクさせながら探し回っていた。探偵の真似事をして、消えてしまったクラスメートの後を追う。まるで小説のようだ。 洞木ヒカリは委員長だが、決してクラスの中心人物などではなかった。どちらかといえば、影の薄い方に分類される。シンジとアスカが転校してきてからは、その友人ということで目立ち始めたが、それはオマケとしての立場。 別に、不満がある訳ではなかった。 目立つのはあまり好きではないし、自分は縁の下で舞台を支えるのがお似合いだと自覚もしていた。目立たない自分、問題なく流れていく日常。親友のアスカと一緒に学校生活を送れるのは嬉しかった。 それに、付き合いだした先輩は良い人だった。ずっと抱えていた鈴原トウジのことを真剣に聞いてくれたのだ。嬉しかった。そして、好きだと言ってくれたのも嬉しかった。自分の悩みを解決してくれた先輩。優しい先輩。 でも――――――。 最近、なんだか冷たくなった気がするのだ。付き合い始めた頃より、一緒に居る時間が減った。電話する時間も減った。熱が冷めてきたのかもしれない。結婚した夫婦だって通る道だ。いつまでも最初のままではいられないのだから。 理解しているから、ヒカリは文句を言わなかった。彼にも都合があると解釈した。受験生なのだ。忙しくて当たり前。そう、何もおかしいことはない。時間を作って会ってくれる。デートだってしてくれる優しい先輩。優しい先輩。なのに自分が疑ってどうする。 正直、不安だった。 いつの間にか、ふっ、といなくなってしまいそうで。 だから、マナをこうまでして探しているのかもしれない。いなくなってしまったマナが、先輩と被ってしまうのだ。もしかしたら先輩もいなくなってしまうのかもしれない。そんな、そんな馬鹿なこと。いや、もしかして。 辺りがオレンジ色になっても、ヒカリは探し続けた。汗で服が張り付いて気持ち悪い。それでも構わず歩き続ける。一件、二件。三件、四件。考えられる場所を回った。バスも使って第三を飛び回った。 それでも、見つからなかった。 考えてみれば、“とっておきの場所”に足を踏み入れたとして、ヒカリがそれに気づく道理はないのだ。マナが何かを残したのなら話は別だ。だが、そこまでする必要性もない。ただ、彼を連れて行った。そこで、“とっておきの場所”だと紹介した。それだけだ。 気が付くと、猛烈な勢いでやる気が萎えていくのが分かった。 今まで沸いていたやる気が底をつき、体のダルさが襲ってくる。何を真剣になっていたのだろう。マナは引越しただけだ。それが普通より急だっただけ。そう、それだけ。 気が付くと、ヒカリは小高い丘の上にいた。 第三新東京市が一望できる丘は、当然のように見晴らしが良い。“とっておきの場所”として候補には入れていたが、ここまで来るのは面倒なので、一番最後にと決めていた場所だった。 「・・・・あれ? ここにも残ってたんだ、これ」 歪な形の時計台を見上げる。いつ見てもおかしな形だ。ここ最近は撤去されてしまったから見なかったけど、こんな所に残っていたとは。 捻れた支柱に手を置くと、金属特有の冷たさを感じた。火照った体にはちょうどいい。そのまま寄りかかり、ヒカリは目を閉じる。頬をなでていく風、髪が揺れる。空が近づく。 ――――――壊れて・・・・もど・・・・赤いう・・・・一、つに 「・・・・?」 話し声が聞こえて、目を開ける。辺りを見回しても、自分以外には誰も居なかった。空耳? にしては、ヤケにはっきりと聞こえた気がする。耳を澄ましても、時計の針が刻む音しか聞こえない。 カチコチ。カチコチ。 カチ、コチ。コチカチ、カ。チコ、 カチ。 コチ。 カチ・・・・コチ、カ、チコ カチコチ。カチコチ。カチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチカチコチコチカチカチカチコチカチコチカチコチカチコアチ。 「――――――あ」 目を開ける。目を開ける? あれ? 開けていた? 開けたのはさっき。でも、今開けた? ? ? ??? 頭を振って、眠気を吹き飛ばす。どうやら一瞬だけ眠ってしまったらしい。ろくに休まず一日中走り回っていたから、疲れて当たり前だ。ヒカリはもう一度頭を振ると、帰り支度を始める。 「あら?」 ふと、気配を感じて振り返ると、何も居ない。妙な声が聞こえて、視線を下に向ける。 「――――――。」 その日。 洞木ヒカリは、今までの考えを改めた。一般常識とか、世界の共通意識とか。 結局、彼女が家に辿り着いたのは、日が完全に落ちてから。 そして、インターホンを押したのは、その一時間後であった。もちろん、両親には叱られ、姉妹には「珍しいこともあるものねー」と、いい笑いものにされた。 それでも、意に返さず、ヒカリはこう言った。 「まあ、いろいろあったのよ――――――」 ■ 二十二幕ノ弐 「予兆U」に続く ■ |