神造世界_心像世界 第十二幕 「伝説のOut Of Place ArtifactsV」












 島根県○×市。

 都会とは言えないものの、かといって田舎でもない普通の街並み。

 建てられた民家はサードインパクト後もきちんと役割を果たし、そこには数多くの家族が住んでいる。貧富の差によって幸福度の度合いは違うが。

 駅前を基点に発達した街中は若者向けの作りになっている。

 高齢者は近寄りがたい雰囲気だが、好き好んでゲームセンターを訪れるお爺さんお婆さんはいない。彼らは郊外に設けられた小さな公園でゲートボールを楽しみ、近くの公民館で茶を飲んで談笑をする。

 住民達に不満はなかった。

 コンビニ前に不良がたむろするのも珍しいほど。暴走族などもっての他、こんな面白味のない公道を走っても、彼らの欲求を満たすことなどないのだから。

 一言で言えば、ごく普通の街だった。








 駅から車で二十分ほど南下すると山を切り開いたニュータウンが姿を現す。

 高台にあるだけあって眺めも爽快、市内を流れる川(水害)の影響を受けないニュータウンには、いくらか裕福な家庭が集まっている。

 坂の不便ささえ考えなければこれほど良い土地はないだろう。

 幼稚園、小学校はすでに創立されていた。中学校の校舎の建設計画も持ち上がっている。

 山の上に立つように、歴史の薄いニュータウンにぴったりな、比較的新しい住宅が軒並みをそろえて建っていた。



 「ん?」



 真新しい校舎に少し狭い校庭。

 住宅の中に割り込むように作られた小学校はいささか窮屈そうに感じてしまう。

 

 「どうしたんだ?」

 「いや、なんか耳鳴りが・・・・」



 校庭は生徒で溢れ返っていた。

 数多くのクラスが昼休みなので空になっている。大抵の子供は校庭に出るか、体育館に直行するかのパターンだ。中には図書室で読書をする者もいるのだが、皆がからかって『ガリ勉』と不名誉なあだ名をつけるので人気はない。

 例に漏れず六年三組の男子達は校庭に飛び出し、同年の一組とのサッカー試合に汗を流していた。



 「耳鳴りぃ? オヤジくせえー」

 「う、五月蝿いなあ! オヤジじゃないよ」

 「おやじー。おやじー。おいキタロー」

 「意味わかんねえ」



 からかってくる友人を追い払う。

 これがいつもの日常。

 学校に行って勉強して。

 給食を食って昼休みに校庭でサッカー。

 放課後に友人の家に行ってゲーム。

 帰宅して見たくもない宿題を済ます。

 緩やかに流れていく、いつもの日常。

 変わり映えしない日々を退屈に感じたり。

 だけどそれが楽しくて、不満があるけど些細な事だった。



 「・・・・え?」



 変わらないと、終わりはないと思っていた。

 非日常が、訪れるまでは。
















 堕天化した規格外OOパーツ第弐号“ヤマタノオロチ”はN2のダメージから立ち直ると、その矛先は近くの街に向けられた。

 すでに非常警報が発令済みで、住人はシェルターに避難を完了させていた。

 が。

 破壊活動を予測していた街中を素通りし、あろうことか住人が避難しているシェルターの真上で行動を停止させた。

 なぜシェルターの位置が分かったのだ、と驚愕する戦自の面々を嘲笑うかのように大蛇は残った七本の尾を地面に突き立てる。

 シェルターは巧妙に隠蔽されて分かりずらい場所に設置されていた。

 強度も並みの空爆では揺るがない強さを誇る。

 尾が地面に突き刺さった衝撃はシェルターにも伝わっていた。何事かと慌てる戦自隊員と恐怖する住民達。子供が泣き叫び、老人の中には諦めかけた表情を浮かべている者さえいた。

 戦争経験のない若者に比べて、年配者たちは雰囲気から尋常でない事態だと悟ったのだろう。

 クク、と嘲笑を浮かべた老人を気味が悪そうに若者達は見ていた。

 彼らとて普通ではない事態なのは分かっている。

 が、危機感はどうしても薄くなっている。世間ではOOパーツがなんだと騒がれているのだが、実際に被害がなかった彼らにしてみれば、同じ日本で起こった事といえ、外国で起こった戦争と大して変わりはないのだ。

 顔も知らない他人を哀れに思う気持ちはあっても、手を差し伸べることはない。なぜなら自分のことで精一杯なのだから。

 誰だって自分の生活が一番大事なのだし、自分より他人を優先するキチガイじみた行動を取る人間は得てして早死にしやすい。この身一つで紛争地帯へと繰り出し、家族の心配をよそにあっさりと戦闘に巻き込まれて死んだりしてしまう。

 自分の命なのだから自分で責任を持つ、と言いながら、残された家族に降りかかるのはその死んだ者の後始末なのだ。当然ながら自分が死んだ後は他人に任せるしかない。

 確かに他人を思いやる気持ちは大切だ。

 だが。

 自分を思いやる事に理由は要らないのだ。

 故に緊急事態には我先に逃げようとする防衛本能が働く。案の定シェルターは押すな蹴るなの大パニックになってしまった。力の弱い子供や女性、老人が押し倒され、我を失った青年諸君は出入り口を目指して大混乱。

 今更、外に出ようが状況に変わりはあるまいに。

 シェルターの片隅、運良く喧騒から逃れることが出来た老人はうんざりと毒づく。

 ここまできたら覚悟を決めろ。

 今まで不自由のない生活をおくってこれたのだ、そのツケが回ってきただけ。

 まあ、なかなかに良い人生だった。

 と、老人は先立った半身である妻を柄になく思い浮かべてみたりした。








 黒光りする鱗は、もはやそれ一つ一つが死の象徴であった。

 身体を固定した大蛇は残った五本の頭をそれぞれ地面へと向けると、「キィィイイイイイ」と甲高い音を口から漏らす。

 断続的に地上と空から攻撃が加えられるものの、すでに牽制にさえ役立ってはいなかった。

 追い払っていたVTOLやヘリも無視を貫き、





































 死ね!

 死ね!

 死んでしまえ!





































 何かを堪えるように大蛇は鳴いた。

 異様さを察知した攻撃部隊はさらに激しい射撃を繰り返す。

 だが大蛇は動かない。

 彼の攻撃手段は五本の頭による打突である。単純だが類を見ない威力を誇り、銃弾を跳ね返す装甲も紙の如く切り裂かれていた。

 だが今になって大蛇は反撃の手を休めた。

 何かヤバイ!
 
 現場の分隊長は焦った。

 歴戦を生き抜いた勘か、それとも生物としての本能化からか。

 背中を這い登ってくる悪感。

 加速する心拍数。

 カラカラに乾いていく喉。





































 殺せ!

 殺せ!

 殺させてくれ!





































 キィィイイイイィイイイ、と耳を劈くような超高周波が鼓膜を揺らす。

 鼓膜を突き破って進む進む進む。

 それが限界まで近づいた瞬間、

 辺りは光に包まれた。
















 





















 バラバラと偵察ヘリのローター音が鳴り響く。

 先程まで街があった土地には巨大なクレーターしか残らなかった。

 隕石が衝突した様に半径数キロmに渡って根こそぎ消滅させる悪魔の所業。
















 「街が一つ消し飛んだ、か」

 

 ここまでくれば核の使用許可も下りよう。被害がなんだという次元はとっくに過ぎてしまっている。

 これは“天災”だ。

 シェルターに避難しようが関係ない。

 その土地ごと吹き飛ばすのだ。シェルターなど跡形も残るはずがなかった。



 「それにしても・・・・」



 吹き飛ばされた街の映像の隣に、進行を続ける大蛇の姿が映っている。

 先程の攻撃は捨て身技であったのか、頭はすでに残り三本になっていた。尾も同じように吹き飛んで、身体も半分までが機能をなさなくなっている。これでも生きているのだから始末に置けない。

 N2を使用すれば殲滅出来るかと考えられたのだが、どうやら学習したようで空爆機は近づくものから撃墜されるようになってしまった。

 辺りを包囲していた戦自攻撃部隊は文字通り消滅したのでN2をどうやって打ち込むかが問題である。

 強大な破壊力を持つとはいえ、それは近づいて使用する必要がある。その上、保有するN2にも限りがある。すでに三発のN2を使用してしまっているので、他県の基地から持ってくる必要があった。



 「なんて無茶苦茶な攻撃・・・・」

 「使徒の中にも自分の身体を爆弾にして落ちてきたヤツがいたじゃないの。あの目玉お化け」



 初弾が海に落ちたから良かったものの、市街地に落ちていたらN2並みの被害が出ていたに違いない。

 

 「あれもギリギリでしたからね。三人いなきゃ失敗してましたよ、きっと。ねえ、碇さん?」

 「・・・・」

 「相変わらず無愛想ですね、ホント」

 

 レイはシンジを睨みつけるようにガンを飛ばしている。司令席にユイがいるために表立って反論できないのだろう。

 

 「はいはい、今は大蛇の対処でしょ。レイもなんでそんなに嫌そうな顔するのよ?」



 アスカはなんで碇君の肩を持つの、とレイの目は語っていた。

 

 「さっきの攻撃で自分もダメージを負ったみたいね。確かに強力な攻撃方法だけど・・・・効率が悪すぎる。割が合わないわ」



 街一つ吹き飛ばすたびに身体を失っていたのでは、あと二回ほどで自ら自滅するだろう。

 だが威力も馬鹿にできない。日本の中枢機能が集まった都市でアレをやられでもしたら、日本は事実上壊滅する。



 「今まで十分に有利だったのは向こうだったのに。なぜ自ら不利になる行動を起こしたのか・・・・」

 「アレは・・・・」

 「ん?」



 レイが目を細めて言う。



 「アレは・・・・急かされているみたい。なぜだか・・・・そう感じる」

 「急かされる・・・・?」

 「そうです。黒くなってから・・・・何かに背中を押されるみたいに・・・・」



 堕天化によって能力が向上するのは確認済みである。だがこの大蛇の場合、堕天化によって攻撃手段は格段に上がったものの、自己の破滅も同時に呼び込むようになってしまった。

 生物が進化するのは環境に適した能力を付けるためである。

 環境に適応する――――――すなわち生きるために。

 だが進化した結果が自己の破滅を促すとは、進化の果ての果ての出来事だ。多少、環境に合わせて進化を促進したくらいで自滅しているのなら、人間などとっくに滅んでいるだろう。



 (堕天化が周囲の状況によって引き起こされるものだとしたら、恐らく引き金は最初のN2。でも負の感情は何処から・・・・?)



 兵士達の恐怖から?

 それとも殺意?

 しかし、感情が最高潮に達する戦闘中にもかかわらず堕天化の兆候は見られなかった。

 変化はN2地雷の起動後。



 「クスクスクス・・・・確かに碇さんの指摘は正しい。あれは急かされている。後押しされている」

 「・・・・でも、可笑しいわ。一体誰が、いいえ、一体何が」

 「分かりませんか? 彼らはこう言ってます。殺せってね」

 「・・・・」



 辺りが静まり返る。

 こうも直接言われてはぐうの字も出ないのだ。

 殺せ。

 殺せ。

 殺せ。

 大蛇は喋らないはずなのに、なぜだかこう叫んでいるように感じてならない。

 殺せ。

 殺せ!

 なりふり構ってないで、さっさと殺せ!!



 「・・・・恨み、苦しみ、憎しみ。アイツが憎い。俺達を殺したアイツらを殺したい・・・・・・・・・・・・・・・

 「アスカ?」

 「なんで俺達ばかり。なんで俺達だけが。死ななければならなかったんだ」

 「!?」



 死ななければならなかったんだ。

 つまりソレはすでに死んでいる。

 堕天化は負の感情によって引き起こされるのだ。

 つまり、堕天化を引き起こす者は、生きている人間の感情とは限らない・・・・・・・・・・・・・・・・



 「死者の・・・・死者の感情に影響されたというの!?」

 「たぶんそうでしょうね。その上、厄介なことに大部分が憎しみで占められている」



 生きている者が発するとすれば恐怖。自らが殺される事に対する恐怖だ。しかし今回の場合、戦闘中に殺された殆んどが即死している。生身のまま殺されるのではなく、戦闘機や戦車の爆発に巻き込まれて死ぬのだ。故に仲間の死体を見ずに済むので割り切れてしまう。

 恐怖、悲しみで堕天化したのなら今の異常行動を起こす可能性は低いだろう。

 だが憎しみによって堕天化した大蛇は、N2に巻き込まれた兵士達の怨念を受け継いでいる。

 ほんの一瞬の憎しみを、本来ならば霧散して消えるはずの怨念をOOパーツが拾ったのだ。



 「憎しみは生きている人間に向けられる。自分達は殺されたのに、殺した人間はのうのうと生きている。きっと、それが許せないんでしょう」

 「だからあんな自殺紛いの行動に出てるのね・・・・本来の『自己の生存』を繰り下げてまで人間殺しを行おうとしている。

  バンザイアタックほど厄介なものはないわ」



 大蛇は文字通り消滅するまで殺戮を続けるのだろう。

 殺された者の複合体。

 恨みと憎しみの権化。

 彼は、人間を殺す事だけが生きる目的なのだ。



 「第弐号の進行予測地が判明。このまま行くと・・・・○×市に」

 「N2は事実上使用不可能。N2弾道ミサイルも打ち落とされそうだし、効くかどうかもわからないわ。ミサト」



 視線が葛城ミサトに集中される。

 すでに手段は核しか残されていない。いや、それが一番手間がかからずに処理できる方法であった。

 都市部を壊滅させられるよりは地方で殲滅する方が確実に被害は少ないだろう。少ないといっても、数え切れない死者と、後に残る汚染が心配されるのだが。



 「・・・・」

 

 仕方がない。

 分かってはいる。

 この手段がお偉いさんが望む一番のものだとも理解している。

 大方、後で情報操作をして先走った将校の愚行とでも報道するのだろう。祖国を思うあまりに彼は過ちを犯してしまったのだと。



 「だけど」



 本当にそれでいいのか。

 自分が、いやNERVが。



 「だけど! NERVは人類を守るための組織なのよ! それなのに、それなのに同じ人間を殺すなんて!!」



 ミサトは思う。使徒を倒し、世界の英雄たるNERVが、自分が、こんな虐殺紛いの暴挙に出てしまってもいいのか、と。

 最後まで諦めてはいけない。

 きっと何か手段があるはずだと。



 「・・・・戦略自衛隊本部より、指揮権譲渡の連絡が入りました」

 「第弐号、○×市に進行」



 青葉とマヤから報告が入る。

 指揮権が譲渡されたことにより、NERVが介入出来るようになった。事実上、戦自が白旗を揚げたのだ。責任の押し付けとも言うが。



 「第弐号、破壊活動を開始しました。進行速度が速すぎて避難が完了していないようです!」

 「・・・・葛城二佐、総理と事務次長の認可が下りた。首都部に達する前に、核弾道ミサイルによる殲滅を行うそうだ」



 今まで傍観していた冬月が受話器を置きながら言った。

 核搭載大陸間弾道ミサイルは高高度から進入してくるので、核の影響を受ける距離までは確実に近づけるだろう。

 ミサトの前に黒服の男達がやってきて、これまた黒一色のアタッシュケースが置かれた。いつの間にかミサトの隣にゲンドウがやってきている。

 ゲンドウは無言でケースを開けると、手渡された紙に書かれているパスワードを打ち込む。

 中にはコンピュータらしきものが入っている。

 

 「葛城二佐」

 「・・・・はい」

 

 項垂れながらも、ミサトはもう一つの螺旋状の鍵を手に取ると、ゲンドウの「3、2、1」の合図で同時に窪みへと差し込んだ。
 
 ピー、という電子音と共に別の画面が立ち上がる。

 そして用意されていた二つ目のパスワードを入力すると、「Y/N」と画面に表示された。



 「・・・・ミサト。発射されてから到達まで時間がかかるわ。都市部まで遠いとはいえ、いつまでも放っておく訳にはいかないのよ」

 「分かってるるわよ!!」



 分かって、るんだから。語尾は聞き取れないほど小さい。

 ボタン一つで沢山の人が死ぬ。

 罪のない人が、だ。

 直接切り刻まなくても、撃ち殺さなくても。

 殺した事には違いないのだ。

 だが核を使うという事は並大抵のことではない。いくら国の危機だとしても、彼女一人に発射責任を任されることはまずありえない。

 ミサトが気づいているのかは別として、偶然にもヤマタノオロチが進行する地域の付近に、“反NERV・反政府”を掲げる宗教団体の本部が存在していた。この団体は過激派カルト集団で、サードインパクトを乗り切った自分達こそが神の使徒だという思想を掲げている。選民思想を取り入れた厄介な宗教団体であった。

 政府は今の状態に便乗して、この団体の本部を葬り去ろうと考えているようだ。しかも発射ボタンを押すのは葛城ミサト。自分の手を汚さずに反乱分子を一掃するには、またとない機会である。



 「・・・・クス」



 シンジは気づかれないように小さくワラった。彼は裏があることに薄々気づいていた。だがミサトに気づかれて癇癪でも起こされたら堪らない。

 こんなにも最高の舞台なのだ。

 この身はしがない観客でしかない。

 ならば聞き手に徹するとしよう。



 (さて、どうなることやら)
 













 大蛇は眼下に広がる町並みを手当たり次第に破壊していた。

 堕天化してから備わった機能を試すように、残った口から熱量の塊を噴射させる。コンクリートのビルは飴のように溶け、爆発を起こして周囲に飛び火した。

 移動しながら活動する大蛇から逃げ纏う人々の姿はまさに怪獣映画そのものである。映画と唯一違う点は、無造作に死体が転がっている事だろうか。大蛇が去った後には破壊尽くされた瓦礫の山しか残らない。負傷した人間はそのまま放置され、息絶えるのが大半であった。

 

 「ひいいいいぃ!!」 「がああああああ!?」 「いやああああああっ!!」



 警察も消防も機能しない。元より警官や消防士が死んでしまっては意味もなかった。

 

 (殺せ!)

 (殺せ!)

 (根絶やしにしろ!!)



 内なる絶叫に答えるべく、傷ついた大蛇は尾を地面に突き立てる。

 チョコチョコと逃げ回る人間を一掃するには一番効率の良い方法だ。それに伴い壊れる体など二の次に過ぎない。

 あくまで第一目的は“人間の殲滅”のみ。

 キィイイイイイィイ、と辺りに甲高い音が鳴り響いた。
















 「またアレをするつもりなの!?」



 唯一送られてくる映像はアングルが悪く映像も見づらい。だが状況を知る手段がこれしかないのも事実であった。

 身体を固定した大蛇は熱量の開放を始める。

 広範囲を一気になぎ払う“自滅覚悟の奥の手メギド”。

 今でさえ満身創痍だというのに、自ら死期を早めようというのか。

 否。

 彼にとって“死”とは結果に過ぎないのだ。

 

 「核を撃つならアレが収まった直後がいいわ・・・・間違いなく、いえ、高確率で殲滅出来る」

 「・・・・」



 画面が乱れ大蛇から遠ざかる。だが間に合わない。一瞬ホワイトアウトしたかと思うと、圧倒的熱量に押し流されて偵察ヘリは消滅した。

 














 辺りに静けさが戻ると、荒野には死に掛かった大蛇が僅かに輪郭を残し、佇んでいた。

 ボロボロになった身体は当に死に体になっている。だが、それでも彼は生きていた。

 それは執念からか、生きようとする生存本能か。

 朦朧とする彼の意識を、バラバラと五月蝿い音が引き止める。

 またあれか。

 いくら潰したところで蛆の様に沸いてくる。

 実害は少ないが、厄介なことこの上ない。

 身体は少なくとも動く。

 ならやるべき事は・・・・決まって・・・・い・・・・。

 






































 ――――――そして、憎しみと怨念は綺麗に消え去った。





































 「・・・・消えた」



 それは呆気なく終わってしまった。

 代わりの偵察機に矛先が向けられたと思ったら、傷ついていた大蛇はあっさりと消滅した。

 フッ、と。

 まるでホログラムの如く消失するのは、第壱号の時に経験しているがいつ見ても不可思議であった。

 リツコは訝しげに眉をひそめ、ミサトは心から安堵した。

 これで核を撃つ必要がなくなった。

 人を殺す必要もなくなった、と。

 だが彼女は気づいていない。

 核を撃つしかない状況だったという事は、次に規格外が現れた時には核を撃つしかないという事を。



 (第壱号もそうだったけど、どういうこと? 時間制限・・・・にしては第壱号より長く現界しすぎているし、ダメージによるものなら消えるタイミングがおかしい。

  殺しつくして満足したとか? それこそまさかよね。あの程度じゃ満足しなさそうだし。何か理由があるはずよ。何か理由が・・・・)



 思考の海に沈むリツコを残し、発令所は大いに安堵した雰囲気に包まれた。

 核を撃つという現状に口を挟めずイライラしていたユイ。

 青ざめた顔だが、マヤ達オペレーター三人組も肩の力を抜いた。

 














 こうして規格外OOパーツ第弐号“ヤマタノオロチ”は日本に多大な被害を与え、消え去った。

 この事件をきっかけに人々は危機感を持ち始め、『OOパーツ』という単語が世界中に知れ渡ることになる。

 そしてしばしの――――――。










































 「・・・・そして退屈な日々に終焉を、か。終幕は近いようだね」

 「しゃー」

 「・・・・ヌル助、君は突然現れるのが趣味なのかい?」

 「しゃーあ」

 「・・・・そう」




































 ――――――そして、しばしの、平穏が訪れた。












 ■ 第十三幕 「 積罪のワルツ 」に続く ■