神造世界_心像世界 第十幕 「 大破壊/創造/碇シンジ 」












 「うあああああぁぁあああああぁああぁぁああッ!!」

 



































 僕は喉の底から悲鳴を上げた。

 目の前には巨大なシロイナニカがこっちを向いてワラっている。

 なんだアレは。

 なんだ、アノ白イ者ハ?

 全体が白で統一されてほっそりとしたフォルム。

 雲を突き抜けてそれは身を起こした。

 
 



































 「――――――綾波、レイ」


 そうだ。

 アレは間違いなく綾波レイだ。

 全長はエヴァンゲリオンの何百倍か。まるで象と蟻くらいにその差はあった。

 綾波の顔。

 白い綾波の顔。

 彼女の肌は白かったけど、それは雪みたいな白さだった。

 だがコレは異様だ。

 まるで絵の具で塗りたくったようなシロさ。

 見ていて、胸が気持ち悪くなった。





































 「ァアアアアアアAAAAアアアアアアアアアアッ!!!」


 
 再度絶叫。

 もう自分でも訳がわからない。

 ミサトさんにキスされ、初号機に乗り込み。

 だが碇シンジはとうに壊れていた。

 碇シンジ/惣流・アスカ・ラングレーはとうにコワ、あれ?

 僕は僕でアタシはアタシよ。

 違う。

 僕はアスカで碇シンジだ。

 



































 ――――――アタシはもう泣かない。



 知らない。

 僕は人形じゃない。

 アタシは一人でも生きていける。

 僕は泣いているけどアタシは泣かない。

 惣流・アスカ・ラングレーは碇シンジはもう泣いているけど泣かない。





































 ――――――妻殺しの子供だ。



 ママ!

 母さん!

 ママはどうしてアタシを僕はどうして一人で公園に居るの?

 碇シンジはいつも一人で惣流・アスカ・ラングレーは一人で遊びたくはないのに。





































 「「ああああああああああああああああああああああああああああっ」」



 混ざり合って混乱不可解説明不可能。

 アタシはシンジで僕はアスカで。

 僕はシンジで僕はアスカ。

 アタシはアスカでアタシはシンジ。

 目の前のファーストは僕には不可解理解不能。

 アタシは喉が切れて出血するくらい絶叫、そして錯乱。

 訳もなく頭を振り回しLCLを掻き毟る。





































 チカチカチカ。

 クラクラクラ。

 目の前が真っ暗で眩しいや。

 白い綾波の真っ黒な目玉がこっちを見てる。

 顔の高さは目線の高さ。

 アタシと初号機は空を飛んでいた。





































 ――――――それは、とても気持ちの良いコト。



 そんな声が、聞こえたような気がした。





































 
 磔にされる身体。

 ロンギヌス・コピーで両手を貫かれ、痛みはもうどうでもいいわ。

 

 ――――――僕はもう疲れたんだ。



 ほら、訳もなく僕は叫んでる。

 身体はとうに動かない。

 僕が感じるのは両手の痛み/灼熱/嫌悪感。

 手のひらから進入してきてアタシの頭を犯す/侵す/冒す。

 朦朧としていて、でも鮮明で。

 ただ呆然と広がる白い羽をキモチワルイと思ったり。

 ああ。

 吐きそうだ。

 このまま吐いたらLCLに混ざってかなりヤバイんじゃないかな。

 ・・・・キモチワルイ。

 



































 ――――――ガフの扉アンチATFが、開くヒカる



 皆の意識が、融ける。

 ミサトさんはもういないけど、死体もココロ融けていく。

 副指令マヤさんマコトさん青葉さん。

 皆融けて混ざり合って。

 後に残った悲しい十字架。

 それは世界を地球を埋め尽くし、泣いた。

 それは人の生きた証。

 それは人の穢れた業。

 それはヒトをやめる直前に。

 

 ――――――悲しい。



 なんで?



 ――――――苦しい。



 どうして?



 ――――――憎い。



 誰が?



 ――――――汚らわしい。



 どこが?



 




 聞こえてくる声声声声声声声。

 そのどれもがアタシの脳を焼き尽くし嬲り溶かしていく。

 なんて感情。

 なんて激情。

 四十六億年分の感情が一気に流れ込んでパンクして破裂。

 それでオシマイ。

 本当に呆気ないくらいに碇シンジはパンクしてアスカは破れた。

 プシュー、と音を立てて萎む。

 今まで生きてきた時間も、感情も、記憶も。

 ダラダラとヘドロみたいに流れ出る。

 そして萎えた風船に入り込んでくる誰かの叫び。





































 ――――――お父さんが、殺された。



 (憎い!)

 (憎い!)

 (憎い!)





































 ――――――必要ないと、ゴミみたいに切り捨てられた。



 (憎い!)

 (憎い!)

 (憎い!)






































 軍のため未来のため民のため。

 お前の代わりはいくらでも居るのだたかが平民の一人や二人や何千人。

 どうしてお父さんは妻は息子は死ななければならなかったのか。

 教えてください。

 伝えてください。

 命を犠牲にしてまで護らなければならないものとは何なのでしょうか。

 今まで過ごしてきた人生と等価値のモノなどあるのでしょうか。

 自分の世界は妻を中心に回っていたのに。

 夫はわたしの命だったのに。

 息子は誰よりも大事だったのに。

 痛いよ、母さん。

 苦しいよ、お父さん。

 死んでしまったのに感じるのは何故なのだろうか。

 耳で聞こえる魂の叫び。

 わたしは、何処に行けば良いの?

 誰を恨めば良いの?

 楽になるのは、いつなの?

 数字で表される幾つモノ命。

 そこに籠められた時間を考える訳でもなく、それは簡単に切り捨てられた。

 



































 ・・・・。

 ・・・・・・・・!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・!

 わたしは何?

 僕は命。

 地面に生える草。

 丘に咲く花。

 森で茂る木々。

 痛みを訴えることもなく、わたし達は死んでいく。

 憎い。

 痛い。

 苦しい。

 

 ――――――ねえ、憎いって、何?





































 野を駆け、銃殺。

 鑑賞され、毒殺。

 捕食されるために、惨殺。

 摂理の中で、わたし達は。

 僕達はまた死んで生きていく。

 大空を羽ばたいた。

 大海原を泳ぎ回った。

 そして、死。

 自然死殺害また殺害。

 いくらワンワン泣こうと喚こうと。

 いくら死にたくないと抵抗しても。

 ニャーニャーガオガオゴウゴウウキウキ。

 死んでしまったら、ただの肉。



 ――――――ねえ、わたし達は、何?





































 十字架は命。

 十字架はイノチ。

 磔にされるは感情。

 埋め尽くされた激情からは憎さ悲しさその辛さ。





































 パンクする。

 いや、とうの昔にパンクした。

 碇シンジというキャパシティを超え、その感情は流れ込む。

 誰が憎いとか。

 誰が可哀想だとか。

 圧倒的な感情は惣流・アスカ・ラングレー/碇シンジを洗い流す。

 記憶という模様はなく。

 ただ、圧倒的な激流でかき回される。

 



































 ねえ、聞こえているかな?

 聞こえているんでしょう?

 苦しいのでしょう?

 悲しいのでしょう?

 アタシは僕は。

 混ざり合って癒着確立保存依存。

 



































 ――――――、ああ。

 こんなにもワケノワカラナイ世界だと言うのに。

 感じるシンジ/アスカの鼓動だけは確かなのは。

 これが安らぎ。

 唯一感じる、安心感。

 今にも切れそうな細い糸のそれはもう。

 放すことなど、考えられない。





































 ――――――それは、とても気持ちの良いコト。ねえ、ヒトツになりましょう?



 


































 ――――――でも、僕は悲しいと思ったんだ。



 ――――――とても恐いって思ったんだ。



 だってそうだろ?

 誰もいないこの空間はとても寂しくて。

 キモチワルイ集団固体は拒絶。

 イヤなんだ。

 傷つけ合っても、罵り合っても。

 誰かが居てくれないと、冷たいんだ。

 自分独りでは生きていけない。

 生きていけたとしても、生きていたくはない。

 他人という、暖かさ。

 他人という、冷たさ。

 独りという、虚無。

 君なら分かるだろう?

 一つになっても、それじゃあひとつなんだ。

 君が居て、僕が居る。

 アナタが居て、わたしが居る。

 





































 ――――――こんにちは、鏡の中の自分。



 期待したような反応なんて、ありえない。

 望んだままでいてくれるなんて、ありえない。

 いつだって期待をして裏切られる。

 裏切られる。

 裏切られる。

 裏切られる。

 それでも、僕は。





































 ――――――僕は、たくさんで、居たいんだ。






































 ――――――アタシは、独りは、イヤなんだ。








































 ああ、アタシは――――――。





































 ――――――どうして、生きているの?
















 ■ 神造世界_心象世界 第十一幕 「蜂蜜の月」に続く ■