神造世界_心像世界 「はじまりの唄 T」






 「あれからもう三年か・・・・」


 腰まである長い黒髪をなびかせながら、サングラスをかけた女性はつぶやいた。

 明らかに美人と言われるであろうその容姿は二十台前半にしか見えない。

 もし彼女の親友がこの場にいたのなら、普段の彼女を知っているだけに驚いただろう。なに三十すぎているのに格好付けているのよ、なんて。

 片手に持った缶ビールを煽りながら彼女、葛城ミサトは眼下の街を見据えている。

 第三新東京市。

 かつての戦場となった街は大いに活気付いていた。

 人類の敵とされる使徒が目指していたこの地は、今や日本の中心都市となっている。

 スーパーコンピュータ“MAGI”によって整えられたこの街の機能は、人間が治める政治を遥かに超えたその恩恵だと言っていいだろう。

 伊達に「将来に住みたい土地ベスト30」に選ばれてはいない、ということだ。ましてや栄光ある一位ともあれば。

 その都市の中心となっている組織。

 ここ三年間で常識となりつつあるその組織の名前――――――“特務機関NERV”。

 使徒戦役時において“人類の敵、使徒”と激戦を繰り広げ勝利し、今や“世界の英雄”と評されている。

 非公開組織だった三年前とは違い、この現在ではお茶の間のTVにも映る公開組織となっていた。るーららー特務機関ネぇーるふぅー♪

 将来つきたい職業ナンバー1。

 人類を救った栄光ある組織であり、正義の味方でもある。

 と、いうのが民間のNERVに対する認識なのだった。

 

 その組織の幹部である葛城ミサト32歳(昨年めでたく入籍しました)は只今アンニュイ全快中である。

 彼女がいる場所は第三新東京市(以下、第三)が一望できる小高い丘(?)だ。

 彼女はわけもなくこの場所に来たのではない。

 馬○は高いところが好きだとはいうが、彼女がここを訪れたのはある少年との思い出がある場所だからである。

 使徒がいなくなった今、第三は使徒迎撃都市として役割を終え、“いかに住みよい街にするか”に重点が置かれている。

 だから地面からビルが生えてきたりなどはしないし、ビルが突然ミサイルをぶっ放してきたりなどもしない。

 「なんか面白味に欠けるのよねえ」と、某猫好き博士が言っていたとかいないとか。

 

 葛城ミサトは未だNERVの作戦部長である。

 使徒がいなくなったのになぜ作戦部長が必要なのか。そう聞かれても「一応、念のため」としか答えようがない。

 NERVはエヴァなどのオーバーテクノロジーは一切封印処理をした、と民間には宣言している。

 大きすぎる力は新たな戦いを呼ぶ。

 数年前、国連から紛争の調停にエヴァの使用をしてはどうか、と提案を持ちかけられたときにNERVが返した答えである。

 その返答をした人物、特務機関NERV総司令、碇ゲンドウはすでにサングラスも髭もない、ただの司令と化している。

 言い方はおかしいだろうが、その言葉が一番的確だろう。

 威圧的だった雰囲気も薄れ、普通に会話をすることができるようになってきたのだ。

 それに一番驚いているのは彼の側近である冬月コウゾウ、「ふ、なかなかに可愛げがあるではないか」と思ってしまったのは内緒だ。

 ゲンドウが丸くなった理由は一つしかない。

 白衣をまとった美女、ゲンドウの妻である、碇ユイの影響であるのは誰の眼にも明らかだった。

 ユイはその若さで技術部顧問、そして副指令という重役をこなしている。

 旗から見ればおしどり夫婦であろうその光景も、ゲンドウの過去を知る者達の間では、一時期世界の終焉が〜とか噂にもなったほどであった。

 その碇夫妻は愛娘、碇レイ(旧姓、綾波)を加え、いい家庭を築いているそうだ。


 
 「ほんとに、司令はなにを考えているのかしら」


 その光景も、ミサトにとっては微笑ましいものではない。

 まだぎこちないながらも微笑むゲンドウも。

 帰還した当初こそ落ち込んでいたものの、今ではすっかり元気になったユイも。

 その夫婦に挟まれながらも満更ではなさそうなレイも。

 笑っている。

 笑っている。

 笑っている。

 心の中ではワラっている。


 「なんでよ・・・・」


 ミサトは空になった空き缶を高台から放り投げた。

 弧を描きながらそれは飛んでいき、「あちゃ〜、ポイ捨てって条約で禁止されてるんだっけ」しまった、と彼女は辺りを見回す。

 案の定、電柱には監視カメラがキラリ。

 ポイ捨て対策のために取り付けられた、MAGIに直結された監視カメラだ。

 いつもいつもご苦労様です。ミサトは愛想笑いを浮かべながらその場をあとにする。

 後にポイ捨てが親友にバレ、お小言を言われるのを彼女はまだ知らない。



 風が吹き、木々を揺らした。

 青い弾丸が走り去ったあとに残ったのは静寂と――――――。

 形がありえないくらいに歪んだ逆様の時計だけだった。





 ■ 「はじまりの唄 U」に続く ■ 










 〜あとがき〜


 時期はサードインパクトから三年後の舞台です。

 EOE! EOE!

 で、みんな帰還しちゃってますね。死んだはずのミサトとかユイとか。まあありがちですけど。

 この「神造世界_心像世界」では使徒は一切でてきません。

 まだ書きはじめたばかりなんでなんともいえないですが。

 はいー